takegrigriの今昔物語

団塊世代のじじぃが昭和時代から見てきたことを書いています

時計(2)ブローバアキュトロンとクォーツ

千林商店街の一角に時計店がありました。
その時計店に今まで見たこともないデザインの時計がショーケースに置いてありました。

電磁コイルや抵抗などの電子部品や、小さく構成された音叉が表面から見えるデザインになっており、僕の中では未来的、宇宙的な画期的デザインだと思ったわけです。
さらに、驚いたのが秒針の動きです。今までの時計では秒針は小刻みに進みますが、この時計の秒針はスーッとなめらかに滑るように動くのです。
時計の横には、「一日の誤差1秒 音叉時計ブローバ アキュトロン」のPOP広告がついていました。「誤差1秒」というのは音叉時計では実現が難しい精度であると後に分かりましたので、僕の記憶違いで、実際には「誤差2秒」か「誤差3秒」と書いてあったのかもしれません。ともあれ機械式機構の時計では出せない精度でした。

時計を購入したり、修理してもらった時に、時計を客に渡す前に時計を正しい時刻に合わせてくれますが、この時計店ではその際に店員さんが「社長、今何時ですか?」と聞くのです。そうすると社長がおもむろに左腕に付けたブローバアキュトロンを見ながら「今、○○時△△分××秒」と秒の単位までいうのです。「かっこいいーー!!」と思いました。秒まで自信を持って言える時計があるんだという感動です。
それからは、この「ブローバアキュトロン」を見るために千林商店街に行くということが多くなりました。
父親にこのブローバアキュトロンの話をして、この時計に替えたらと聞いたのですが、ブローバアキュトロンを見もしないで「そんなんいらん」と一蹴されました。その理由は分かりませんが、僕の話を聞いて重厚さがないと判断したのかもしれませんし、自分が持っている外国製時計がよっぽど気に入っていたのかもしれません。
今改めてブローバアキュトロンの写真を見ると、なんだかオモチャぽいなというのが感想です。でも、当時は本当に「ブローバアキュトロン」にハマリました。

就職してお金を稼げるようになったら、貯金して「ブローバアキュトロン」を買うぞ、と決めていました。
当時(1965年前後)その時計店でついていた価格が23万円か24万円でした。パティックフィリップほどではありませんが、かなりの高額でした。でも、何とか買いたいと思っていました。

就職したころ(1972年)、水晶腕時計(クォーツ)をセイコーがすでに出していることを知りました。しかも水晶腕時計の精度は音叉時計よりもさらに良く1日の誤差1秒以内を確実に実現できるということでした。僕が欲しい時計は水晶腕時計に変わりました。やっぱり僕は精度重視でした。
しかし、当時の水晶腕時計の価格は50万円ほどするというのです。今は千円で手に入る水晶腕時計が当時はびっくりするほど高価だったのです。

これは、昔アルミニウムの精錬が難しくアルミニウムがきわめて高価な金属であったとき、ある国の王様がその高価な金属であるアルミニウムで王冠を作ったけれど、その後すぐにアルミニウム精錬技術が進歩してアルミニウムは極めて廉価な金属になったため、王冠の価値が全くなくなったという逸話に似ています。

その後、水晶腕時計は20万円台になりましたが、僕にはまだ買えませんでした。
そうこうしているうちにデジタル腕時計(デジタルクォーツ)が出現しました。最初のデジタルクォーツは10万円以上しました。
その後、セイコーから廉価版の水晶腕時計「セイコークォーツ タイプⅡ」が出ました。この頃になるとクォーツでも10万円以下で買えるようになりました。
さらに、デジタルクォーツとアナログ水晶時計(アナログクォーツともいいました)の混合型(「デジアナ」「アナデジ」「ハイブリッド」とか各社でいい方が違いました)が現れました。さらに、アラームが付いたデジタルクォーツやアナログクォーツも発売されました。
技術の進歩が速く次々と新しい時計が現れ、価格も安くなっていきました。どの時計を買うかずっと迷い続けていました。
セイコークォーツ タイプⅡ」は価格的にも精度的にも魅力的でこれにしようかと思いましたが、一方でデジタルクォーツにも斬新さを感じて、決めきれませんでした。

結局僕が買った時計は、アラームが付いた「セイコー ハイブリッド」でした。1982年に買いました。セイコーのアラーム音が独特で、他社のアラーム音が「ピッ」とか「ピコピコピコ」だったのですが、セイコーのアラーム音は「ピンポーン」と音に抑揚がありました。これに魅かれたのです。
セイコー ハイブリッド」のケースの金メッキが剥がれてきたころ、「セイコー アスタリスク」というアラーム付万年カレンダーのアナログクォーツを買いました。この時計はデザインも機能もかなり気に入っていて、生涯これでいいかなと思っていたのですが、10数年ほど使用して、4つあるボタンスイッチのうち1つが動かなくなりました。ボタンスイッチが1つでも動かないと電池を交換した後の時刻、日付合わせのどれかが出来なくなります。修理に出しましたが、もう部品在庫がないので修理できないと返却されました。定価8万円の時計でも部品保存期間が10数年かと少し残念な気持ちでした。でも、定期的に時計の分解掃除をしていれば事前にボタンスイッチの交換もできたのかなという後悔もあります。

仕方がないのでしばらく、元の「セイコー ハイブリッド」を使用していましたが、60歳の定年時に2針式の「セイコー ドルチェ」を買い、10年経った今も使っています。
これが僕の最後の時計になりそうです。